裁定残とマイナス金利と理論先物価格

今年になってBOJがマイナス金利政策を導入してから、債券マーケットはもちろんですが株式市場でも大きな異変が起きています。

もっとも影響が大きいのが裁定残の変化です。

Googleで「裁定残」でニュース検索すると昨日がメジャーSQだったこともあってか、たくさんの記事がでてきます。最近の解説はほぼすべて「BOJにETFを渡すため」というものだけですね。ETF買いに対応するために裁定残高が減っているのだ、と。

 

ですが裁定残高変化も本質はBOJはBOJであってもETF買いではないと私は分析しております。それは理論先物価格を計算してみると見えてくる事象です。

 

<理論先物価格の計算>

教科書的には、現物価格×(1+(短期金利配当利回り)×日数÷365)、というようになっていますが、実務的にはもう少し変わっていて、

 

現物価格×(1+(調達金利-インプライドレポレート)×日数÷365)-期間中の予想配当落ち額

 

と、考える人が多いでしょう(直近1、2限月に対しては)。

インプライドレポレートというのは、株を借りるときの「借り入れ利率」見たいなものです。株式を空売りするためには株式を借りてくることが必要ですが、そのコストが実運用では金利計算に必須となります。

注意深く日経平均先物価格の推移を見ていると気づくと思うのですが、先物価格は日経平均現物価格から配当を控除した価格よりも低い価格で取引されていることがほとんどなっています。つまり上記の数式上の「調達金利-インプライドレポレート」がマイナスとなっているということです。この状況を正確に観測するためには、「EFP」という特殊な取引のレートから逆算します。

 

<EFP>

Exchange For Physicalの略で現物株式と先物を交換する取引を指します。

この取引は主に機関投資家と証券会社、もしくは証券会社同士で実施されています。

 証券会社同士のマーケットでは100.とか130という数字で気配が提示されています。これはどういう数字かというと、「ある時点の株価指数から100円引いた数字で先物を取引しましょう」という数値です。

例えば場中に「100円で大引けEFPを買います」という約定をすると、大引け日経平均が決定されたあとに、大引けの数値から100円引いた価格で先物を取引の相手方とJ-Netクロスします。J-Netクロスというのは取引の相手方と商品、価格を指定して約定を付ける大阪取引所のデリバティブ専用の市場です。

この数値から、マーケットで取引されている理論的な取引価格が逆算できます。

 

 

このEFPから逆算された金利水準と裁定残高の推移を比較すると極めて高い相関があることが見えてきます。ちなみに直近の金利水準はマイナス38BP程度です。

 

裁定残高と金利水準が大きく低下したのは今年のマイナス金利導入以降です。

ここから推察できる結論は、債券からLiborまで多くの金利水準がマイナス金利政策導入以降に急低下し、マーケットの調達金利も急激に低下する一方でBOJによるETFの買入(1月時点でも買入は一回300億円もありました・・・)による証券会社のレンディングニーズの高止まりからレポレートは低下せず、結果的に「調達金利-インプライドレポレート」がマイナスに入っている、ということだと私は分析しています。

 

しかし、まあ世の中のマーケット解説者でなぜひとりも先物価格の金利感に触れる解説がないのでしょうか?もしかしたら私の分析が大きく違っているのかもしれませんね(笑